横浜中華街で感じる香港、その8-無添加の正統派手作り月餅『聚楽』

香港製の木型から取り出される月餅は100%手作り。製造から販売まで手塩にかけられた月餅は、目からウロコのおいしさです!

こんにちは!香港ナビ勝手に横浜支局です。まもなく中秋節。この時期の香港は、あんや皮に工夫を凝らし現代風にアレンジした華やかな月餅があらゆる菓子店の店頭を飾っていて、その華やかさに驚かされますね。でも、夜空の満月と世の中の団欒を象徴する、という月餅の意味を考えたら、やはり中秋節当日には正統派の月餅を食べたいもの。香港ファンで月餅を食べなれている人でも、「目からウロコが落ちた!」と絶賛する正統派の月餅が、横浜中華街にありました!毎年9月、「中秋月餅」の赤いのぼりが立つと、その販売を心待ちにしていた人たちが遠方からも駆け付けるという聚楽(じゅらく)の月餅。どっしりした重みに秘められた魅力をうかがいに、お店にお邪魔してきました!

並んだ木型は香港メイド

横浜中華街で中華菓子を製造販売して48年。それ以前の卸をしていた時期までさかのぼれば、半世紀もこの地で菓子に関わってきた聚楽は、現在3代目の夏信良さんが伝統の味を引き継いでいます。家族のみですべての菓子を作り上げるため、中秋月餅がメニューに加わるこの時期は大忙し。「うちは作る人と売る人が同じだから…」ということで、店を閉めた深夜に月餅を作ることもしばしばなのだとか。
店の顔である月餅をつくるための木型は香港製。中身のあんの名前がハスの花びらと共に描かれた模様、直径、深さも含めてすべて初代から受け継がれてきた聚楽の月餅の顔。その原型をもとに香港へ注文し、手作りしてもらっているのだそうです。香港の職人のワザが、こうして横浜中華街でも力を発揮しているのはうれしい限りですよね。

秘伝の蜜が皮の風味をひきたてます

厨房を案内していただいたところ、まず目に飛び込んできた年代物の天秤ばかり。「この店より古くからうちにあるんです」という。歴史を感じさせるようにはかりの単位は「貫」。月餅を含めた聚楽の全てのお菓子は、このはかりで粉を計量することから始まります。さらに、その横には存在感を主張している木製の作業台。こちらで月餅つくりの全てを行うのだそうです。木型で成型した月餅は型を叩いて取り出すのですが、長年叩く作業をしているその場所だけ、木がえぐれるように削げていました。月餅つくりのハードさがそのえぐれに表されていますね。
あんを楽しむのが月餅と言われていますが、「うちのものは皮も一緒に味わって欲しいから」という理由で、聚楽の月餅は薄皮が主流の広東スタイルよりも皮がやや厚め。そのこだわりの皮は、代々伝わる秘伝の蜜で粉を練ることから始まります。「これも店の歴史よりも長くうちにある」という龍が描かれたツボにたっぷりとたたえられた蜜は、目で見るだけで濃厚さが感じられるほど黒々とした輝きを放って出番を待っています。
茶色くつややかな生地を練り上げ、その中に各種あんを詰めていきます。中秋月餅は全部で3種のあんを使いますが、その中でも、非常に手間がかかるためにこの時期しかつくれないというハスの実のあんは必食。乾燥したハスの実から、渋みが出てしまう芯の部分をひとつずつ取り除き炊きあげていきます。ねっとりとした濃度なのに、口の中で柔らかく溶けていくようなあんは、「目からウロコ」と称されて納得のおいしさ。香辛料などが際立つこともなく、素材が融合し合う自然な風味です。
生地を練り、あんを包み込み丸めます。旦黄蓮蓉はこのあんの中央に塩卵(あひるの卵の塩漬け)が入ります。それを木型に押し込み成型。型から取りだしたら、表面に溶き卵を塗り180度のオーブンで10分ほど焼き上げます。あんは既に火が通っているので、成型してからの焼き上げに長い時間はかけません。焼いている途中にもう一度溶き卵を塗ってさらなるツヤを導き出します。焼きあがったら、常温で1日以上寝かせ味を馴染ませます。

一切れでやめられない、あとを引くおいしさ

できあがった月餅は、奥さまがひとつずつセロファンでラッピング。最後の最後まで完全な手作業です。カウンターに置かれ出番を待つ月餅はどっしりとした風格。でも、この見た目を裏切るかのように、味は軽やか。しっとりとした皮と滑らかなあんはとても上品な甘さで、旦黄蓮蓉は塩卵のほんのわずかな塩気が追いかけてきます。手にしたときの重みからその密度は実感できるので、4分の1にカットした一切れでやめておこうと思うのだけれど、溶けていくようなやさしい口あたりに、つい手が伸びてもう一切れ。
伝統の広東スタイルの月餅でありながら、日本人の味覚にぴったりと当てはまる。中華菓子は好きだけれど、月餅はちょっと…という方もみうけられますが、聚楽の月餅は、そんな方にこそぜひ食べていただきたいもの。一切の添加物を排除し、すべてが手作業で作り上げられる月餅は、ふくよかな愛情にあふれたまちがいのない美食です。
中秋月餅は、その年の中秋節の日によって若干の前後はありますが、例年9月中の販売。中秋月餅以外の、黒あん白あんなどの月餅は通年販売しています。また、馬拉糕(マーライコウ)、鶏蛋糕(蒸しタマゴケーキ)も人気の品となっていて、カットでも丸ごとのホールでも購入できます。季節の味を大切に伝えたいということで、月餅以外にも、5~6月のちまき、12~3月の大根餅なども販売されています。

【中秋月餅】
旦黄蓮蓉(黄身入りハス実あん) 798円
蓮蓉大月餅(ハス実あん) 798円
双黄蓮蓉(2つの黄身入りハス実あん) 898円
伍仁肉月(ミックスナッツあん) 798円
旦黄豆沙(黄身入り小豆あん) 585円

真っ黒ではない、薄霞のかかったような墨色の空。月を表す黄身も黄色ではなく、赤みを帯びた生命力のあるオレンジ色。切り口からして既成概念をうち破ってくれる聚楽の蓮蓉月餅は、その体温のようなやさしさのある味わいから中秋節の本来の意味である「家族団らん」を思い出させてくれます。聚楽の月餅を味わいながら月を愛でたいから、中秋の夜は爽やかな秋空が広がりますように!  以上、香港ナビ勝手に横浜支局が空に願をかけながらお伝えしました。

その他情報

■聚楽(じゅらく)
住所:横浜市中区山下町143(長安道沿い)
Tel:045-651-2190
営業時間: 10:30〜21:00
定休日:火曜日、元日

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2008-09-10

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