中華街中心を走る路地「香港路」。数多のレストランがひしめき合う全長180メートルの小道をご紹介。
こんにちは!香港ナビ勝手に横浜支局です。横浜中華街の顔とも言える善隣門から中華街大通りに入り二つ目の路地。名前の付いている主要な周辺路地の中で一番道幅が狭く、行き交う人と店の看板とがふれあいそうになっている賑やかな路地が「香港路」です。行くたびに疑問に思っていました。「なぜこの路地に『香港』という名前がついたのかなぁ?」と。そんなナゾの解決の糸口を見つけるべく、香港路を歩き、香港路の老舗に嫁いで50年というやさしい笑顔の素敵マダムにお話をうかがってきました!
横浜中華街のメインストリート「中華街大通り」と、もうひとつの大通り「関帝廟通り」を串ざしするように走っている路地が「香港路」です。端から端までゆっくり歩いても5分とかからない小さな路地。そこに立ち並ぶレストランは北から南までの幅広いジャンルの「中華」料理ですが、他の路地より広東料理店が多く見受けられるのは「香港路」の名前に由来するところなのでしょうか?
粥の名店『
安記』は1932年(昭和7年)から香港路に店を構え、日本の素材を使いながら広東由来の味を生み出し、その魅力を今に継いできました。安記の開業当初は香港路に食事を提供する店は3店舗しかなかったそうですから、70年以上の時を経ているとはいえこの周辺の変貌ぶりはかなり激しいものといえるでしょう。
横浜生まれで、昭和に活躍した小説家で演出家、劇作家でもある獅子文六(1893~1969)が1952年に刊行した『やつさもつさ』という小説に登場するレストラン「海員閣」。創業70年を超える老舗でありながら、気取らない広東料理とノスタルジックな店のたたずまいが人気でお昼時の行列が現在でも続く名店です。神戸からその海員閣に嫁いで50年。現在、海員閣前の中華雑貨店「盛華」にて、やさしい笑顔で接客している曾淑華さんに、当時を振り返っていただきながら「香港路」についてお話しをうかがいました。
-----戦前、香港路という名前になる前、ここは「海員閣通り」という名前だったの。
安記さんのお話によると「70年前には3軒しかなった」というレストランの中でも、創業が早く、あっという間に地元の人気店となった海員閣は、いつの間にかその位置するところの道にもその名が使われるようになっていたのだそう。誰が言い出したのかは不明ですが、そのまま10年ほどその名で呼ばれ、第二次世界大戦時の空襲により大きな被害を受けた中華街の復興と共に、その名が「香港路」と改められたのだそうです。
-----今の「明蘭餐庁」という四川料理店は、もともとは「明蘭ホテル」という宿泊施設で、香港や中国から来た人がたくさん泊まっていたのよ。
貿易のために横浜を訪れた欧米人に加え、その船の船員、さらに日本人と筆談ができることから通訳としてたくさんの香港人・中国人が横浜にやってきました。船の停泊期間中の人気の宿となっていたのが「明蘭ホテル」だったのです。人が集まるところに食事処ができるのは自然の摂理。1店また1店とホテル周辺に中華料理店が開店し、便の良さが口コミで広がり、また明蘭ホテルに人が集まり……と、にぎやかさを増していったのでした。当時、香港を経由して入ってくる船が多かったことを考えると、明蘭ホテル周辺に香港の味を提供する店が多く存在していたことは想像に易しく、香港人、香港の味がたくさん集まるところ、それが「香港路」の名に繋がって行ったようです。
長く複雑で多くの人が絡み合う横浜中華街の歴史の中にあっては、香港路に住まって50年の曾さんでも「香港路の名前の由来はこうです」と言い切ることは不可能ですが、うかがった話と中華街史を照らし合わせてみると、上記のような輪郭が見えてきました。
苦労して創業しひたすら努力することで店を守ってきた初代から店を引き継ぎ伝統を守る人、店の形態を変えて更なる飛躍を計る人、様々な形相を見せながら香港路は少しずつ姿を変えていきます。時代の流れに合わせて変わっていくのは当然のことだけれど、昔の面持ちを知っているだけにその変化に若干の淋しさも感じているという曾さん。「戦後の横浜中華街と共に歴史を刻んでいる『香港路』という名前を、その変化の中でも守り続けていけたらいいわね」と穏やかに語る曾さんの言葉に深くうなずいたのでした。
「香港路」のはじまりはひとつのエピソードではなく、横浜中華街らしくたくさんの人との混沌とした物語が潜んでいるというところに、またさらなる魅力を感じてしまいました。これからお会いする横浜中華街で香港を感じさせてくださる方々に、引き続きこのお話をうかがっていきたいと思っています。以上、香港ナビ勝手に横浜支局が、香港路の真ん中からお送りしました!
その他情報
■海員閣(かいいんかく)
住所:横浜市中区山下町147
TEL:045-681-2374
■盛華(せいか)
住所:横浜市中区山下町147
TEL:045-681-6847
上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。
記事登録日:2009-11-13