横浜中華街で感じる香港 その15 横浜中華街と共に歴史を刻む聘珍樓

日本に現存する最古の中国料理店。老舗中の老舗でいただく雲呑麺は麺の1本1本に歴史が絡まっているかのよう!

こんにちは!香港ナビ勝手に横浜支局です。2009年6月2日、横浜開港150周年の記念日を迎え、一段と注目が集まっている横浜。その横浜の歴史を語る際、必ずその名が上がるのが横浜中華街の中華街大通りに本店を構え、香港にも5店舗の支店を持つ老舗にして名店の聘珍樓です。1887年の創業以来、その名にあぐらをかくことなく日々進歩し続けている名店は、「食の安全」が話題になりはじめる以前から、安心安全をモットーに素材のひとつひとつに自らの目を光らせてきました。手間を惜しまず、丁寧に作り出す間違いのない味は、横浜の歴史を代弁してくれるかのように深いものです。

聘珍樓で振り返る横浜中華街

1955年に街のシンボルでもある牌楼門(ぱいろうもん)という名の門(現在は善隣門という名に改められています)が完成し、そこに「中華街」という文字が掲げられたことから、一帯は「中華街」と呼ばれるようになりました。牌楼門完成以前は「南京町」と呼ばれていた地域で、まさにその南京町の成り立ちとほぼ時を同じくして聘珍樓は創業しました。チャイナタウンとして東アジアで最大の規模を誇り、あらゆるジャンルの中国料理楽しめる街として知られる横浜中華街も、当時はごくごく普通の生活の場。“日常”がくりかえされるのんびりした町でした。そんな歴史をつぶさに見てきた聘珍樓ですが、関東大震災と横浜大空襲により、貴重な資料は全て焼失してしまったそう。他の場所でたまたま保存されていた写真だけが当時の様子を物語ります。発見された何点かの写真は、レストランエントランスホールに飾られていますので、訪れた際にはぜひ目を向けてくださいね。

安心安全を第一のモットーに




食の安全が大々的に問われるようになったのはここ数年のこと。まだまだ「安いことは良いことだ」と思われがちだった頃から、聘珍樓では価格だけではなく、提供する食の全てにおいての安全性に向き合ってきました。日本で手に入りにくい中国野菜は総料理長が香港で吟味した種を持ち帰り、契約農家で栽培してもらっているそうです。その他の食材に関しては、できる限り有機農法で作られたものを、肉や海鮮素材も総料理長自らが安全を確認したものを取り入れています。店内で使用されている食材に関しては、ホームページで全て産地を公開しています。(下記データ内URL参照)

香港ご出身の謝華顕総料理長

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まずは聘珍樓の味の総責任者、謝華顕総料理長をご紹介します。謝総料理長は1948年広東省生まれ。13歳のときから香港の海鮮酒家での修業を始め、23歳にして翠園酒家本店のチーフシェフとなり、当時「最年少チーフシェフ」として大変注目を集めました。1980年に日比谷聘珍樓の料理長として来日。その後、日本国内はもちろん、香港の全店舗も統括する総料理長となり、聘珍樓で提供されるメニュー全ての素材からできあがりまで全ての行程、全ての味に全身の感度を上げて向き合っています。


中国料理に関わる全ての人にとって神様とも言える謝総料理長ですが、とても気さくで店頭で行われるイベントにも販売スタッフのひとりとして登場したりすることもあるそうです。そこまでしなくてもいい立場にありながら、現場が大好き!という気持ちがすぐに行動に出てしまうのですね。61歳とは思えないハリのあるつややかな肌と日本国内や香港内を飛び回っても疲れを見せない元気の源は、「料理の要として日々何度もチェックを入れる上湯スープかな…」、と。幼くして単身乗り込んだ香港での修業時代にはご苦労も多かったそうです。その香港に、聘珍樓の料理長として「日本」という看板を背負って戻ったときには、「とてもドキドキした」と率直な感想をおっしゃっていました。「日本の店ということで軽視されてはいけないと、努力は惜しまなかった」とも。
そんな謝総料理長がとにかくこだわり続けているのが、「直接お客様の目に触れない部分こそ手間をかけて仕事はていねいに」。手抜きの一切は許さないという厳しい姿勢です。業者に頼めばそれなりの味のソースやスープを納入してくれますが、「それは聘珍樓の味ではない」と、全てをいちから手作りすることに徹しています。たとえば、雲呑麺のスープはエビの殻をオーブンで焼いて砕き、干しエビ、大地魚(干しヒラメ)などと共にていねいに長時間煮込んでうまみを引き出して作り上げます。お客様のテーブルに登場する姿に大きな違いはなくとも、口にした瞬間に心の深層に響く「お!」という喜びは、そういう細かな作業に手間暇を費やしやっているからこそ。「他店よりもおいしく」という、純粋な向上心とあくなき探求心で日々聘珍樓の味は進化を遂げているのです。

香港よりも香港らしい 雲呑麺&亀ゼリー

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香港ファンならば、おいしい雲呑麺の情報は少なからず持っていることと思います。でもそれは香港での話ですよね? 日本で香港スタイルのおいしい雲呑麺が食べたくなったらどうしますか? その答えは、やはり「聘珍樓へ行こう」です! 先述の伝統的な手法でひたすら手間をかけて作り上げたスープ、芝エビの存在感たっぷりの雲呑、総料理長が思案を重ねた素材配合で特別に打っている麺、とこだわり香港よりも香港らしさがあふれた贅沢な雲呑麺は、見た目はシンプルな一杯。でも、このどんぶりの中にぎゅっと閉じこめられた素材の数は、軽く40~50種を越えるのでは。一粒の雲呑には、芝エビのほか、豚肩ロース、椎茸、粉末の大地魚が練り込まれています。芝エビの存在に圧倒されてしまうためその他の素材は感じにくいのですが、目立たない工夫も、口当たり、香りを含めた「おいしい」のために緻密な計算をした上でのことなのです。



たくさんの湯に泳がせるように雲呑を茹でます。エビが赤くなってもすぐには引き上げず、つるんとした皮の食感を引き出すために、さらに15秒ほど熱を加えます。
対して麺の茹で時間は、ほんの10秒ほど。細麺の食感は早さが勝負です。このオリジナルの配合で打たれた麺は、香港の雲呑麺で登場するバキバキした玉子麺とは違い、滑らかさと同時に一本芯の通ったシャッキリ感を感じる絶妙なもの。この食感を広東語で「爽」というそうですが、うまく日本語に置き換えることができない言葉なのだとか。でも「爽」の字面から、その魅力は伝わってきますよね!



雲呑がどんぶりの底に、その上に麺がのった伝統的なスタイルで登場する雲呑麺。麺が伸びないうちに先に食べ「爽」を感じた後に、雲呑をじっくり味わってくださいね。本来の雲呑麺そのままのスタイルで提供されるので、どんぶりはやや小ぶりです。1つからオーダーできる點心をお好みでプラスすると、より香港度が高まります。
本格香港エビワンタン細麺 940円


デトックススイーツとして香港滞在時に食す人の多い亀ゼリーは、缶詰が輸入されるようになり日本でもぐっと身近になった感がありますよね。その亀ゼリーを手作りしているのは、横浜中華街の中でもこちら聘珍樓だけ。プルプルで口の中で弾むように逃げるようなゼリーではなく、ぷるんとした食感のあと、体温でさっとほどけていくような滑らかさで、お腹の調子を整える効果に加えて、食べ安さをも加味されて作られています。もちろん、亀ゼリーらしい漢方の香りと苦みはありますが、それもいつまでも口に残るものでなく、潔く引いていくような漢方を組み合わせています。少し添えられた生クリームが食べ安さをましていますが、さらに純度の高いはちみつをたらしていただくのが聘珍樓流。食後にいただくことを前提に考案された亀ゼリーは、その名に「亀」がついていることを忘れてしまいそうになるくらい“スイーツ度”高しです。
はちみつ亀ゼリー 630円

謝総料理長が自身のレシピを惜しげもなく披露した料理書3冊が柴田書店より発売されています。プロならではの視点で家庭料理を紹介している著書は、「ちょっと試してみようかな~」というレベルでは挑めない品も紹介されていますが、食文化の背景なども語られているので読み物としても美食写真集としても楽しめる書となっています。
歴史を重んじつつ決して進歩を忘れない聘珍樓は、横浜中華街から発信される正統派の「香港」です。そうでありつつも、ひとりでも楽しめる飲茶コースや記念日メニューを用意したり、食物アレルギーにもできる限り対応するなど、その時代に求められているものに柔軟に対応している姿勢に、120年もの長きにわたって横浜中華街で愛され続けている理由が見える気がします。立派な店構えから敷居が高そうなイメージもありますが、そんなことはありません。心地の良いホスピタリティの中で雲呑麺ひとつ、それもOK! どんな一皿でも、そこに詰まっているのは間違いなく「聘珍樓」ですから、気分に合わせて食事を選んでくださいね。以上、香港ナビ勝手に横浜支局が、総料理長自ら作ってくださった雲呑麺に舌鼓を打ちながらお伝えしました!

その他情報

聘珍樓 横濱本店
住所:横浜市中区山下町149番地 中華街大通り
TEL:045-681-3001
FAX:045-681-3185
営業時間:11:00~23:00
定休日:年中無休
ホームページ:http://www.heichin.com/index.html(香港の支店情報もこちらから)
※一部写真を聘珍樓よりご提供いただきました。

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2009-06-12

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