オリンピックの馬術競技の舞台を一足お先に皆様にご紹介。香港だからこそできる最先端の技術と施設で4年に一度の祭典を盛り上げます。
まもなく北京五輪が開催されますが、馬術競技は北京から遠く離れた香港で開催されるのはみなさんご存じでしょう。分離開催は1956年のメルボルン五輪以来です。最大の理由は、香港ジョッキークラブ(HKJC)という世界有数の競馬組織があるからと言っていいでしょう。HKJCは歴史があり、国際的な大レースを毎年運営していますから、馬を扱うノウハウの蓄積があります。ですので、北京で行うよりもHKJCに任せたほうが安心です。馬の扱いというのは、輸送1つをとっても非常にデリケートですから。香港政府としてもHKJCがお金の肩代わりをしてくれるので公的資金を使わずして経済効果が生まれ、香港の宣伝にもなりますから願ったりかなったりです。中国政府は、政治的意図はないとしていますが、中国に返還された香港との一体感を強めたいというのもあるようです(まあ、すでに中国なしでは香港は生き残れませんが)。
沙田会場までの行き方
右側が沙田競馬場。左側が馬術会場
乗馬は2つの会場で行われますが、その1つ、沙田競馬場の西側にある乗馬の施設が報道陣に公開されましたのでレポートします。なお、もう1つは上水にある雙魚河(ビーズリバー)で、HKJCは乗馬のために150万米ドルもの巨費を投じ設営しました。
沙田会場までのアクセスですが、MTR大学駅を目指してください。そこから競技会場まではシャトルバスが3分から10分間隔で運行されます。所要時間は5~10分です。会場近くには車を止める場所がありませんし、交通規制も敷かれていますので公共交通機関を使ってください。タクシーで向かうことは可能ですが、指定されたタクシースタンドがありそこで下車します。そこからの所要時間は歩いて15分位となっています。
入場手続きは空港のよう
会場に着いたらまずチケットが本物かどうかを確かめる機械に入場券を“八達通 オクトパス”のようにかざします。機械上部にある信号が青色になれば、X線による荷物検査に進みます。本人も金属探知器のゲートをくぐります。そして、改めて係員によるカバンの中身チェックと入場券の確認をされて、ようやく入場内にアクセルできるという面倒な手順になっています。
私は、ワールドカップやオリンピックを観戦したことがありますが、空港のような厳重な検査は初めてです。あるメディアの人が「中国でのアジアカップではこんな感じだった」と話していましたから、中国での大規模国際イベントはこれくらいが普通だということでしょう。理由はいうまでもありませんね。
主催者側は「なにもなければ、1分もかからないだろう」と語っていましたが、2万人近くの観客が訪れ、その全員がスムーズに検査を終了するわけがありません。ピーク時はかなりの混雑をする可能性がありますので、私個人としては少し時間に余裕を持って現地に行くことをお勧めします。主催者は90分くらいまえにくれば大丈夫だろうとしています。
1万8000人収容の会場
競技場の収容人数は約1万8000人です。現在改修中の香港体育館(香港コロシアム)や日本武道館よりも大きいです(もっとも五輪終了後に客席は解体されます)。ベンチシートではなく、個別の椅子になっているので隣を気にせずにゆっくりと観戦できるはずです。座席が上の人は双眼鏡を持っていくといいでしょう。
馬場馬術という競技をするときの全体のレイアウト
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試合会場。スタンドはかなりの高さを誇っています
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競技会場の砂は、紙も混ぜてクッション性を高めています。砂はベルギー製、紙はドイツ製です
関係者以外のエリアはこんな感じです
選手は調教師、競技運営者が出入りするところは、一般客は入れませんが、そこを紹介したいと思います。オリンピックでは日本をはじめアメリカ、ドイツなどから229頭の馬が、パラリンピックでも約80頭の馬がやってきますが、その競技馬が寝泊まりする馬房/馬小屋です。香港の暑さは馬には厳しいので室内は23度に設定されています。HKJCの獣医によると「涼しすぎて外気との気温差が大きくては実際に試合をするときに馬がバテてしまうのでよくないし、かといって室内を暑くするわけにもいなない。ちょうど良い気温がこの温度」と答えていました。1つひとつの房はゆったりとしていて、馬が窮屈に感じることはないでしょう。
馬の体をシャワーで洗ってあげる場所がありますが、シャワーの取っ手は壁の中に埋め込まれています。馬が突然暴れて、取っ手にぶつかってけがをするのを防ぐためです。こういうことをちゃんとできる、ノウハウをしっかり持っているのがHKJCだといえます。
面白いのは、馬の体を冷やすためにファンを使って霧を馬の体に吹き付けるというものがあります。巨大なファンからミストが勢いよくだされるのですが、びしょ濡れになるというほどではありません。人間が服を着て霧をあびてもなんの問題もありません。昨年の夏、ここで馬術のプレ大会が開かれましたが、その時の結果を踏まえて少し改良したそうです。こちらの施設は五輪後にHKJC所有の施設になる予定。
内部の様子。広々としています
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ドアにはえさをあげるところも
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シャワーのノブが壁の中にあることがわかります
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ここで軽いウォームアップも可能です
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霧を出すファン
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いろいろなものを運ぶための小型トラック
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馬の体調管理は?
夏のオリンピック競技で馬術が唯一、生き物を介しておこなうスポーツです。ですから、馬のクリニックやラボラトリーは絶対必要となります。昨年夏に日本中央競馬会(JRA)の馬で馬インフルエンザが発生して開催が中止になったことがありましたが、五輪でそんなことになるわけにはいけません。それを防ぐという意味でも検疫体制は万全のようでした。
クリニックのようす
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ラボラトリー。馬でもドーピングはできません
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室内練習場までつくってしまいました
人馬一体とならなければ金メダルは狙えない馬術。練習をしたいけれど外はとても暑くて……というのが大きな問題です。そこでオリンピックサイドでは室内練習場も建設してしまいました。もちろん、屋外練習場もあります。沙田競馬場内に彭福公園(ペンフォルド・パーク)というのがあるのですが、ここは五輪終了後までは練習場に改修し、総合馬術向けのトラックも用意するなど、ハードウェアはほぼ完ぺきでしょう。
馬術パビリオンが五輪博物館で復活?
彭福公園(入場無料)は五輪終了までは入ることができませんが、それまでは野鳥が多く棲息し、噴水もあったりして市民の憩いの場になっていました。昨年の終わりから今年の4月末まで、馬術を知ってもらおうとパビリオンが建設されました。中ではビデオ、施設の模型、ユニホーム、パビリオンの外にも競技用の柵が展示されていました。HKJCによると香港政府との細かい詰めがあるものの、オリンピックが終わった後、公園を元に戻し、かつオリンピック博物館を建設する考えがあるようです。そこにはこのパビリオンで使われたものも展示する計画です。予定では2010年の完成だそうです。
ジャンプ用の柵は結構な高さがあります
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公園内にはポニーもいます
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会場はもう準備万端で、あとは五輪が始まるのを待つだけという印象を持ちました。次回は乗馬の見どころについて書きたいと思います。
その他情報
※一部の写真はHKJC提供
上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。
記事登録日:2008-08-01